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恵比寿の夜は石音たかく

恵比寿で暮らすバーテンダー、イゴの雑記。音と碁と酒が好き。

映画『鑑定士と顔のない依頼人』を、観て。

映画鑑賞感想文

『不安』とは他者から与えられる『恐怖』ではなく、他者への興味から生まれる『期待』が内包される『現実』なのかもしれない。

そして、その『現実』は痛みもあれば、安らぎもあり、孤独でもあれば、幸せにもなる。本作を観おえた僕の感想は、そんなポジティブなものだった。

▼映画『鑑定士と顔のない依頼人』予告

 

本作はミステリ映画とも、ラブストーリーとも言えるでしょう。が、僕には60歳を超えた”男の子”が”大人”になることを描いた作品のようにも観えました。

最後の解釈には、そのミステリもラブストーリーも必要になります。『贋作(偽物)』か『本当(真実)』かを鑑定する喜びを視聴者に残した本作の最後に、僕は賞賛を贈りたくなるのです。

 

他のオススメポイントは、音楽です。流れる音楽や物音は、視聴者を不安にもすれば、次に起こるネタバレを彷彿させたりします。

それは本作へクギ付けにする手伝いになるはずです。そして、主人公の鑑定士ヴァージル・オールドマンに感情移入することができたら、存分に『現実』を楽しんでください。

 

(2017年1月2日 amazonプライムにて自宅鑑賞) 

 

 

以下、ネタバレです。 

 

 

不安は興味から生まれ、その甘美は極上のものである。どれだけ傷ついたとしても。

ヴァージルが騙されていることに関して、作品の中で幾つかヒントがこぼれる。それはヴァージルへのヒントで、同時に視聴者への『不安(つまりは期待が内包される現実)』を埋め込む楔でもある。

この『不安』からくる甘美に魅せられた視聴者は、最後までスクリーンに釘付けだっただろう。僕がそうだったように。

 

最後、正気を取り戻したヴァージルが辿り着いたのは、クレアが唯一行きたかった思い出の店『ナイト・アンド・デイ』だった。

このクレアがヴァージルと視聴者にこぼしたヒントは、果たして嘘か? 真実か? そんな思い出話をする必要があったのか?

 

僕は、……あくまでも僕の本作の楽しみ方は、『ナイト・アンド・デイ』の思い出は本物であり、クレアからヴァージルへの愛情も本当に近かったものになったと思ってのものです。

そう、クレアはヴァージルを愛した。だから、身体も重ねた。それでも、彼女はヴァージルではなくお金を選んだ。それが『現実』の1つだと思うのです。

 

ヴァージルが「連れを待っている」とウェイターに応えるところで本作が終わる。

来ない。クレアは来ないだろう。傷心で1人でテーブルに座るヴァージルを滑稽と思うだろうか? 僕は本作冒頭の1人で朝食を取る彼の方が、よっぽど滑稽に観えた。

 

ヴァージルは1人ではなくなった。誰かといることを知ってしまったから。彼はこれから幸せにも不幸にもなれる。それが羨ましい。

いつか、彼の向かいに座って食事をする誰かが現れたら良いと思うし、それはそんなに遠くないことだと『期待』している。